近年、東南アジアでの駐在を通じてキャリアアップを目指すビジネスパーソンが増えています。中でもタイは、日系企業の進出が盛んで、製造業・サービス業・飲食業といった業種が展開する魅力的な市場です。しかしながら、駐在という貴重な経験も、帰任後のキャリアにつながらなければ意味がありません。
本記事では、タイ駐在を「グローバルキャリアの第一歩」として活かすために、現地での実務経験をどう次につなげるのかを具体的に解説します。実際に東南アジアでの駐在を経験した立場から、リアルな視点でお届けします。

なぜ今、東南アジア×キャリア戦略が重要なのか?
東南アジアは、今まさに成長の真っただ中にある地域。中でもタイはASEAN内でも地政学的・経済的にハブとしての役割を担い、インフラ・産業基盤も整っている国です。
- ASEAN人口:6.7億人超
- タイの平均年齢:約39歳
- バンコク首都圏のGDP:ASEANでも上位圏
タイは、ベトナムやインドネシアと比べると少子高齢化が進みつつあるものの、まだまだ力を持っており、シンガポールの次に発展している国といってよいと考えます。インフラが整っているため生活もしやすいです。
日系の会社が多いこともタイの特徴です。30年以上前からタイに進出している日系企業もあり、安定かつ規模の大きいビジネスがあります。将来を考えると、ベトナムやインドネシアの方が発展していくと思われますが、今どこで働くかを考えるとタイはかなり魅力的な場所です。
タイで働くと言っても東南アジアは隣の国と陸続きですので、東南アジア地域のビジネスにかかわることになります。成長著しい東南アジアにおける実務経験は、今後のビジネス環境で高く評価される可能性が高いと言えます。
タイ駐在で得られる実務経験とスキルとは?
1. 異文化マネジメント
ローカルスタッフとの関係構築、タイ人特有の文化や価値観への理解、指導方法の適応などは、海外でのマネジメント力向上につながります。
この能力は侮るなかれ、です。そんなの簡単じゃんと思われる方がいますが、異文化を理解し、尊重し、ローカルスタッフとコミュニケーションができている人はかなり少ないです。そして、このスキルは、本を読んだりYoutubeを見たりして身に着くものではありません。現地でローカルと話して、体験してようやく身に着くものであります。
2. 多言語対応力
英語やタイ語での会話・交渉・資料作成など、実践的な語学力が鍛えられます。
タイでは、日本語を話すタイ人も多いため、日本語で済んでしまう場合も多いです。しかし、上述のとおり、東南アジア一帯でビジネスをする場合は、日本語だけでは通用しません。英語が必須です。東南アジアの人の傾向としては、人間性を見るためなのか、文化の違いからなのか、話すことが多いです。英語のスピーキング力が求められるため、自然と鍛えることが可能です。
他方で、タイ国内のビジネスに従事する場合は、タイ語が必須です。読み書きはできなくても話す聞くはできるようにすべきです。できないとタイ人に置いていかれます。訳わからなくなります。孤独になります。。。
3. 総合実務力
現地法人では1人が複数業務を兼任することが多く、営業、会計、人事、法務など、横断的なスキルが求められます。
これは、東南アジアについてのみ言えることではないですけれども、海外駐在すると裁量が大きくなるため、自然と横断的なスキルを身につけざるを得ない状況になります。日本では営業しかしていなかったのに、人事や法務も見ることになったというのはよくあることです。
しかし、何も全部自分一人でやる必要はありません。それぞれの分野でローカルのエキスパートを雇い、マネージすればよいのです。マネージは、直訳すると管理ですけれども、文字どおりにすべてチェックするという意味ではなく、「うまくやる」ということです。日々のコミュニケーションを通じてローカルに明確な指示を飛ばし、活躍してもらう。そういう風に考えるといいと思います。ついつい、ローカルを信用できず逐一報告を求めたりしてマイクロマネジメントする日本人駐在員を見ますが、これは逆効果です。日本のやり方がタイで通用するわけがありません。彼らは非常にプライドが高い人たちであることも忘れてはなりません。彼らを尊重しつつ、日本のやり方をカスタマイズして歩み寄る姿勢が大事だと考えます。
4. 問題解決能力
インフラの違いや制度の不備といった“想定外”が多く、トラブル対応力や判断力が磨かれます。
日本のように組織やルールがしっかりしていないのも海外の特徴です。「こうであることが普通」と考えずに柔軟にやっていくしかありません。日本ではこうなのに。。。とか言ってても解決しません。自ら考え、率先して柔軟に、時には内部だけでなく外部の専門家も活用しながらスピード感をもって対応していく能力を身につけることができると考えます。
よくある落とし穴:駐在経験がキャリアにつながらない?
せっかく海外で成果を上げても、帰国後の配属先や職務が“元のルーティン業務”に戻ってしまい、ギャップを感じる方は多くいます。
その原因の多くは、「駐在中に戦略を持っていなかった」「経験を社外にも言語化できていない」ことです。
駐在を“次のチャンス”に変える3つのステップ
ステップ①:駐在中から“次の一手”を意識する
- 現地経験を言語化し、履歴書・職務経歴書に落とし込めるよう準備する
- 自社以外の企業(競合・他業界)の動向にも目を向ける
- 業界研究・業務外の学習(資格取得、MBA、語学など)を始める
ステップ②:ネットワークを資産にする
- 日系・外資企業、現地日本人会、スタートアップ関係者などとの交流を積極的に
- 駐在ネットワークは転職・起業時の情報源にもなる
- 現地での実績や信頼は、その後のビジネス機会にも影響する
ステップ③:「アジア×専門性」で独自ポジションを築く
- HR×タイ人材育成、営業×新興国市場などの掛け合わせを意識
- 日本国内ではまだ希少な“アジア領域×○○”を武器に
- 業界や業務領域を横断した知見を持つ“橋渡し人材”として評価される
駐在経験を価値あるものにするためのTips
- 経験を“棚卸し”してスキルマップにまとめる
- LinkedInやnoteなどでアウトプットを開始
- 同業他社の駐在経験者と定期的に情報交換する
- 現地就職や起業の可能性も視野に入れて行動する
まとめ:駐在を「終着点」でなく「起点」に
タイ駐在は、単なる海外勤務ではなく、今後のキャリアにおける大きなターニングポイントです。重要なのは、「どこにいたか」より「そこで何をしたか」そして「どう語れるか」。
駐在中にこそ、将来に向けた種まきを行うことで、帰国後の選択肢は確実に広がります。グローバル時代において、自らのキャリアを“自走”させるための第一歩を、タイという地で踏み出しましょう。