改正建設業法が10月1日から施行される。本改正では、契約に必ず定めるべき項目が追加されており、契約レビューにおいても注意が必要である。改正内容と契約レビューポイントを以下に概説する。
◆改正の概要
- 注文者に、著しく短い工期による請負契約の締結を禁止する(法19条の5)
「著しく短い工期」の判断にあたっては、次の事項などが個別に判断される。
①休日や雨天による不稼働日
②過去の同種類似工事の実績との比較
③建設業者が提出した工期の見積りの内容 - 注文者に、工期に影響を及ぼす事項について、事前の情報提供義務を課す(法20条の2)
注文者があらかじめ知っている次の情報を建設業者に提供することにより、施工における手戻りを防止し、働き方改革の取組を促進する。
(1)地中の状況等に関する事項
・支持地盤深度
・地下水位
・地下埋設物
・土壌汚染 等
(2)設計に起因する調整に関する事項
・設計図書との調整
・設計間の整合 等
(3)周辺環境に関する事項
・近隣対応
・騒音振動
・日照阻害 等
(4)資材の調達に関する事項 - 建設業者に、工程の細目を明らかにして見積もりを行う努力義務を課す(法20条)
- 元請に、下請代金のうち「労務費相当分」を現金払いとする義務を課す(法24条の3)
- 請負契約の書面の記載事項に、「工期を施工しない日・時間帯」の定めを追加する(法19条)
- 工事現場の技術者(元請の監理技術者・下請の主任技術者)のルールを合理化(法26条、26条の3)
(1)元受の監理技術者
建設現場の生産性を向上させるために、監理技術者は、一定の要件を満たす補佐する者を現場に置いたときは、複数の現場を兼務することができるようになった。
(2)下請の主任技術者
「特定専門工事」については、当事者間で「一次下請の技術者が、再下請の技術上の施工管理を行うこと」を合意したときは、再下請先が主任技術者を置く必要はないことになった。 - 認可行政庁は、建設資材の製造業者に対しても改善勧告・命令ができるようになる(法41条の2)
資材の欠陥によって施工不良が発生したときは、認可行政庁(国土交通大臣・都道府県知事)は、建設業者への指示のみならず、資材の製造業者に対しても改善勧告・命令ができるようになった。 - 許可要件から「5年以上の経験者」を除外し、経営業務管理責任者に関するルールを合理化(法7条)
建設業を営むための要件であった「5年以上の経験者が役員にいること」が除外され「事業者全体として適切な経理管理責任体制となっていること」に改められた。 - 合併・事業譲渡等に際して、事前認可手続きを新設し、円滑に事業承継できる仕組みを構築(法17条の2、17条の3)
(1)旧法では、建設業者が、事業の譲渡・会社の合併・分割を行った場合新たに建設業の許可を取得する必要があったため、新しい許可が下りるまで建設業を営むことができなかった。新法では、事業の譲渡・会社の合併・分割を行うときの事前認可の手続きが新設され、円滑に建設業の許可を承継させることができるようになった。
(2)建設業者が個人事業主であった場合、旧法では、個人事業主の死後、相続人は、建設業の許可を受けるまでは建設業を営むことができなかった。新法では、個人事業主の死後30日以内における相続の認可手続きが新設され、これにより、相続人は、事業主の死後30日以内に認可を申請し、許可されれば建設業の許可を受けたものとして扱われることになった。 - 下請が元請の違法行為を密告したときに、元請が、下請を不利益に取り扱うことを禁止(法24条の5)
- 工事現場における下請の建設業許可証掲示義務を緩和(法40条)
従来、建設業者は、必ず建設業許可証を現場に掲示する義務があったため、再下請先も掲示しなければならなかったが、新法では元請のみ掲示すれば足りることになった。
◆契約レビューのポイント
- 著しく短い工期が定められていないか
建設工事に関する契約に工期の定めがある場合は、当初の工期や変更後の工期が著しく短い期間でないかチェックが必要。「著しく短い期間」かどうかは、上記1に記載する事項が考慮される。
なお、違反した場合は、請負代金額が500万円以上であるときは、注文者は認可行政庁から勧告を受ける(法19条の6第2項)。勧告に従わない場合は、企業名が公表される(同条第3項)。 - 注文者は、工期に影響を及ぼす事項について、情報提供を行ったか
注文者は、建設工事について「工期等に影響を及ぼす事項」があるときは、請負契約を締結するまでに、建設業者に必要な情報を提供しなければならない。
上記2に記載した事項を例として、必要な事項について情報提供を行ったかどうか実務対応が求められる。
具体例は、国土交通省が作成した資料に記載あり(13頁参照)
https://www.mlit.go.jp/common/001299383.pdf - 工期を施行しない日、時間帯が定められているか
建設業者と注文者は、「工期を施工しない日・時間帯」を定めるときは、これを必ず契約に記載しなければならなくなったため、記載漏れがないか要確認。 - 解除事由に「合併・事業譲渡等」が含まれている場合の修正要否を検討
建設業者から、契約の解除事由から「合併・事業譲渡等」の削除を求められる可能性がある。新法では、事業の譲渡・会社の合併・分割を行うときの事前認可の手続きが新設されたものの、建設業者は事前の認可を受けなければ依然として事業の継続はできない。注文者としては、削除を受け入れるのではなく、対案として「合併・事業譲渡等を行う場合において、建設業法17条の2第1項に定める認可を受けることができなかったとき」といった定めに修正することが考えられる。
【参考】