一般的に言われる法務の役割として、次のものがある。それぞれわかりやすいように身体の健康という観点から考えてみる。
- 臨床法務(病気やケガの後に対処する)
- 予防法務(病気しないように普段から運動するとか、ケガしないように注意するなど)
- 戦略法務(よりよいものを食べてさらに元気になる、筋肉質になるなど)
法務部門の役割はどう変わってきたか
ひと昔前は、お客様に損害を生じさせてしまった場合などでのクレームや訴訟案件の対応といった臨床法務が多かった。しかし、現在は、リスクをできるだけ小さくしようとする予防法務に移行し、会社によってはM&Aなどで戦略法務を担う法務部門も出てきている。
今後の法務部門の役割はどう考えたらよいだろうか。思うに、世の中の流れを敏感につかみながら、役割を見直していかなければならないだろう。法務の領域においてもAIがすでに活用されてきているし、法律や規則の複雑化により、より専門的で高度な知識やスキルが求められてきている事実がある。また、会社の法務部門においては、ビジネスの変化にも対応していく必要があり、例えば契約書ひとつ見ても、約款が多いところもあれば、普通の双方が署名する契約が多いところもある。外部的環境と内部的環境の双方をにらみつつ、役割を考えていくことが法務リーダーとして求められていくことだろう。
法務マンとして考えるべきこと
それでは、いち法務マンとしては、どのようなことを考えながら業務に取り組んでいくべきだろうか。意識高い系の人であれば、どのようなスキルを身につけておけば出世や年収アップにつながるのだろうか気になる人もいるだろう。
ひとつ考えられるのは、「コンサル力」。豊富な知識や長年の経験による社内人脈や調整力は、今においても必要ではあるが、昔ほどには重宝されなくなってきているのではないか。今やGoogleで簡単に調べることができるし、社内調整力は、人材が流動化していく今後はそれほど生かせないかもしれない。では、何が重要になってくるか。私が考えるのは、「コンサル力」。社内クライアントからヒアリングして、問題を発見し、課題を抽出、解決策を複数提案する。クライアントが迷わずに決断できるようアドバイスをしていく。そういう姿勢、力こそが重要視され、他者との差別化にもつながると考えている。
AIが活躍する時代に、どんなスキルが役に立つか
契約・取引法務においては、契約書のドラフティング能力が今でも重宝されている。しかしながら、AIを使って例えば、Legal Forceなどを使うことで簡単に契約書の文章をとってくることが可能になった。賛否両論あるが、自ら契約書の文章を作れなかったとしても、それを助けてくれるツールはごまんと溢れている。あとは、どの文章を使えば目的を達成できるかを見極める方こそが重要になった。このような状況下では、いくら契約書書のドラフティング能力を高めたところで、AIには勝てない。むしろ、条文の背景を知ることにこそ時間を使うべきだ。
AIの話をしたので、少し脱線すると、AIを活用した契約レビューが今後ますます発展することになると、そのツールを使いこなす人材が必要になる。上記で述べたとおり、知識量や条文の作成・検索スピードではAIに人間は勝てないので、使いこなすことで成果を効率的に、かつ効果的に挙げることができるかもしれない。
コンサルティングする能力が必要になる
もちろん、いくら地頭が良く、コンサル力があったとしてもそれだけでは足りない。契約・取引法務、機関法務、コンプライアンス法務といった幅広い分野における経験や、ビジネスの深い理解、法律についての高度な専門的知識、語学力も合わさることで、より良い人材になっていく。
誰もはじめっからこんなスーパーマンになれないので、どうすればよいのか。大事なのは、できるだけ良い環境に身を置くことだ。人間、どうしても甘えがでてしまうので、できれば少しストレッチできる厳しめな環境に身を置くことで、自分が考える以上の能力を身につけられると考える。これに日々の自己鍛錬が加われば、完璧になるのではなかろうか。
…とここまで論じてきて何ではあるけれど、人生どのようになるかは誰にもわからない。常に今何をすべきか、最善だと思うことを実践しながら、計画を見直しながら、業務に取り組んでいくことにしよう。