マレーシア汚職防止委員会法(Malaysian Anti-Corruption Commission Act )の改正が2020年6月1日に施行された。本施行に先だって、企業の防衛手段として企業責任の免責を可能とする十分な措置に係るガイドライン(the Guidelines on Adequate Procedures)も発行されている。今回は、それらの概要をさらっと紹介する。
今回の改正では、新たに、贈賄について企業の責任を規定している。具体的には、おおざっぱに言うと、企業の関係者がビジネスを獲得する意図をもって、他者に不正に利益を供与した場合に、企業が処罰の対象となる。企業の関係者個人ではなく、企業自体が責任を持つことにインパクトの大きさがある。「企業の関係者」には、取締役や従業員はもちろんのこと、企業のために働いたコンサルなどの関係者も含む。
罰則は、対象利益の10倍以上もしくは100万リンギット(約2600万円)のいずれか高い方の罰金、もしくは20年以下の禁固、またはその併科。
免責ガイドラインの基本原則
企業が関係者による贈賄行為の抑止の為に適切な措置を講じていたことを立証できれば、免責される原則がある。
これは、英国のBribery Actにも定めのあることであり、真似したものであることがわかる。英語では、Adequate Proceduresと呼ばれるものである。
適切な措置、TRUSTとは・・・
適切な措置(Adequate Procedures)として、次の原則が示されている。
- T Top Level Commitment
- R Risk Assessment
- U Undertake Control Measures
- S Systematic Review, Monitoring and Enforcement
- T Training and Communication
Top Level Commitment
経営者である社長が、従業員に指示して遵守を指示することや、コンプライアンス文化をつくること、従業員から社長にレポートさせることなどがある。社長が率先してやってますよ、というスタンスがわかるように施策を打つことが大事である。
Risk Assessment
3年ごとのリスク評価、また必要に応じてのリスク評価が必要になる。評価対象としては、次の項目が含まれる。実務としては、各部門ごとに評価シートをもとに評価させて、コンプライアンス部門にレポートしてもらうというのがよいだろう。さらに、各部門の評価の結果、危ないという部門には、さらにインタビューをするなどしてヒアリングし、対策を打つことまでするとなおよいだろう。
- 組織のガバナンス枠組みおよび内部システムや手続きの弱点に金する汚職および不正行為の機会
- 汚職に係る支払いを偽装する可能性のある金融取引
- 高い汚職リスクを伴う国や事業分野における事業活動
- 企業に変わって行為する外部者による汚職関連法令の不遵守
- サプライチェーンにおいて企業を汚職にさらす可能性の高い第三者(代理人、ベンダー、請負業者、サプライヤー)
Undertake Control Measures
これには、Due Diligenceと内部通報を置くことが含まれる。Due Diligenceは、具体的には、エージェントなどの取引先と契約を締結する際には、相手の素性や政府関係者との取引がないか、などをチェックすることが求められる。
内部通報は、単に窓口を設置するだけでなく、その周知に力を割かなければならない。基本は、次のようなことをすべきである。
- ポスターや社内HPに内部通報制度があることを掲示して周知
- 簡単にアクセスできるようにする
- 機密性を確保すること
- 通報者が上司などから報復されないことを明確にする
内部通報は、匿名で通報できることから、ふだんなかなか見えにくい闇の部分がでやすい、優秀な制度である。それもあって、当局は内部通報制度を重要視しているので、形式だけでなく、実質を伴った対策をしていこう。
Systematic Review, Monitoring and Enforcement
要は、監査である。ポリシーを作ったり、研修をしたり、リスクを評価したりしていることはわかった、と。ただ、それだけではない。継続的にコンプライアンス状態になるための施策をしているか、ということである。そのために、定期的に。例えば3年に1回は内部・外部監査をすることでモニタリングをしていくことである。個人的には、社内関係者だと監査がぬるくなりがちなので、外部を雇って、評価してもらう方が効果的でかつ、改善ができると思う。
Training and Communication
そのまんまである。定期的に、継続して研修を行うことである。この場合も、ただ形式的に行うのではなく、講師と従業員が双方向でコミュニケーションすることで、深く理解してもらえるようにすることが重要である。そして、それを記録として残しておくことも大事である。万が一、当局の査察が入った場合に見せられるようにするためである。なお、汚職防止ポリシーを定めることは必須中の必須である。
おわりに
日系企業においては、海外子会社について、研修はそこそこやっているものの、ポリシーの制定・改正やリスク評価、監査まで手が回っていないことがよくみられる。年間計画を立てて、外部の力も借りながら、継続的に実施していく仕組み作りが重要になる。