今回は、海外駐在員になるにはどうすればよいか解説する。現地採用との比較も見ていき、どんなメリット・デメリットがあるのかも説明する。アジアの2か国で駐在経験のある筆者が詳細をレポートする。
海外駐在と現地採用の違い
まず、海外駐在と現地採用の違いを見ていこう。要は、誰に雇われているかである。海外駐在は、日本の会社で雇われ、海外の子会社等に派遣されることである。現地採用は、海外現地の会社に直接雇われている状態である。
雇い主が違うだけであっても、求められる仕事や給与・待遇は異なります。以下、具体的に見ていきましょう。
海外駐在員のメリット
まずは、海外駐在員のメリットを見ていこう。
給与・手当が良い
何と言っても駐在員は給与に恵まれている。給与を分解するとこのような感じになる。
- 月給(海外勤務手当を含む)
- ボーナス
- 家賃補助
- 交通費補助
- 通信費補助
日本でもらっている給与に加えて海外勤務手当が上乗せされ、さらに国によっては危険地域手当が加わる。家賃補助もかなりありがたい。毎月日本で払っていた8万円から15万円くらいの家賃が丸ごと浮いてしまう。これはかなりの金額になる。
交通費や通信費も手当があるのはうれしい。
待遇が良い
まず、引っ越し費用を会社が全額負担してくれる。荷造りはある程度自分でしなければいけないものの、数十万円の費用は会社が負担する。
ドライバーがついて毎日送り迎えしてくれることもある。アジアで言えば、インドネシア、タイ、ベトナムにおいてはドライバーがついており、送り迎えをしてくれる。休日も使えることもある。なお、タイのバンコクは電車やバスもあるので、必ずしもドライバーはつかないこともある。しかし、地方に出張することが多ければドライバー付きであることがほとんどだ。
企業によるところが大きいものの、日本食や本の送料を会社が負担してくれることもある。
医療費も会社が負担してくれる。健康診断費用も面倒を見てくれる。
こう考えると、給与だけでなく、かなり駐在員が恵まれていることがわかるだろう。
裁量が大きい
海外に駐在すると、役職は日本にいたときよりもひとつ上がることが多い。大概は、マネジメントの役割をすることが多く、30代で数十人の部下がつくことも多い。
マネジメントの経験を積みたいという人には、駐在はうってつけだと思う。早く経験して、転職し、ステップアップしたい人にはとても良い。
もちろん、責任が大きいからやりがいもある。プレッシャーもあるが、自分でプランして、判断して、決めて、部下を動かしていくことにやりがいを持つことができる。日本にいるとどうしても上司にいちいちお伺いを立てたり、細々とした仕事に終わってしまうことが多いが、海外は違う。すべて自分で決める。でも、上司がいたり、日本本社がいるので、適宜相談しながらやれば、そこまでプレッシャーもないかもしれない。
現地採用のメリット
働く場所や期間を選べる
これが一番のメリットであろう。海外駐在はどうしても会社に身をゆだねなければならず、自分の行きたい場所を希望してもその通りになるわけではない。現地採用は、自分で働く国、地域、会社を選べる。これはデカい。
また働く期間も選べる。その国が気に入れば、労働許可証が出る限り10年でも20年でも住むことができる。
国によっては待遇が良い
今は、日本よりも給与が良い国が増えてきた。日本は世界の先進国と比較して貧しくなってきたのは事実だ。円安のせいだけではない。
例えばシンガポールに行けば、新卒でも、月給3500シンガポールドル(35万円)からスタートできる。日本の場合は25万円くらいからなので、10万円もアップ。アメリカならもっと高いだろう。それなりの経験と知識があれば、5000ドル(50万円)以上もざらだ。30代前半で年収1000万円の職は当たり前のようにある。
裁量が大きい場合が多い
日系の会社ではそこまで裁量は大きくないものの、外資系は比較的裁量が大きい。特に、アジアにおいては、日本人は仕事ができると思われているので、大きな仕事を任せてくれる可能性が高い。
外国人の友人ができやすい
現地採用の場合、駐在員と一定の距離がある。給与も待遇も違うので、駐在員は気軽に現地採用の日本人を誘わないし、駐在員どうしで飲みに行ったり、ゴルフに行くことが多い。
現地採用の人は、現地の人と仲良くなりやすい。給与も待遇も似ているし、仕事も同じくらいの立場である。せっかく海外にいるのであれば、現地の人たちと仲良くするのがよいだろう。
海外駐在員のデメリット
続いて、海外駐在員のデメリットを見ていこう。最近、ケツメイシが「海外駐在員への唄」をリリースした。駐在員の辛さを歌ったこの歌を聴くと、決して駐在員の生活が楽ではないことがわかる。♪負けるな~、なまけるな~♪
働く場所を自分で選べない
現地採用とは違い、働く場所を選べない。欧米などの先進国であれば良いものの、治安が悪い国などに行く場合は危険と常に隣り合わせ。場合によっては、家族にも「一人で行ってきて」と言われる始末である。実際、アジアやアフリカ、南米においては単身赴任する人が多い。特に男性はこれらの地域に行く可能性が高いのは事実である。
働く期間を選べない
海外駐在員がひとつの国で働く期間は、だいたい3年から5年。最大でも8年くらいである。どんなに気に入った国であっても、いずれは日本に帰国しなければならない。それが駐在員の運命。
レアケースではあるが、日本には不帰、他の国にスライドして転勤することがある。しかし、スライド先においても3年から5年経てば日本へ帰る。結局、スライド転勤があっても、10年が連続して海外にいられる限界かと思われる。
職務内容が曖昧であるため、何でもやらされる
これも海外駐在員の宿命。海外の現地社員は、ジョブディスクリプションという担当する職務内容の詳細が書かれたものがあるため、この範囲で仕事をすればよいが、駐在員はこれがない。つまり、何でもやらなければならない。私は、かつて、会社の駐在員研修で、「駐在員はアメーバのように働かなければならない」と言われたものである。アメーバは、形を変えながら、狭い隙間にも入り込んでいく。駐在員もそのように、現地社員がやらない仕事、または、誰もがやらない仕事を拾っていって仕事せい、という意味である。
日本人とのウェットなコミュニティ
日本人は群れるのが好きだと思う。私が住んでいたアジアの国では、社内だけでなく、社外においても日本人のコミュニティがあり、付き合いが多かった。中には、毎週のように、飲み会やゴルフをやっているところもあるため、ほどほどにしておかないと人間関係に疲弊するし、お金も飛んでいってしまう。
こうしたウェットなコミュニティが苦手だという人は、現地社員と仲良くすると良いと思う。日本人から寄っていくのは稀なので、向こうも親切にしてくれることが多い。
現地採用のデメリット
次に現地採用のデメリットを見ていく。
駐在員と比較して給与が低め
シンガポールを除くアジアなどの国においては、欧米と比較して給与が低い。タイで見ると、仮に30歳のメーカー勤めの営業マンと設定した場合、駐在員は7万バーツ(28万円)から10万バーツ(40万円)に加えて駐在手当をもらっている一方で、現地採用者は、5万バーツ(20万円)~である。
もちろん、経験とスキルで駐在員の給与を超えることもあるが、未経験だと最低の5万バーツとなる。タイでは、日本人である外国人が働く場合5万バーツが最低になっているからである。そうすると、日本で働くよりも給与が低くなってしまうことすらある。
生活のセットアップが大変
現地採用で働く人は、就労ビザの取得、家を借りること、車の購入、税金の申告など生活面すべてを自分で行わなければならない。慣れない環境でこれらをやることはかなりタフだ。英語が通じる国であればまだよいが、通じない場合はエージェントに助けてもらう必要があり、費用がかかってしまう。
いつ解雇されるかわからない
なかなか怖い現実だが、パフォーマンスが悪いと会社から解雇される可能性があり、その可能性は日本よりも高い。例えばシンガポールでは、解雇が非常に簡単で、極論を言えば、明日から来なくて良いと言われることもあり得る。日本は労働者保護が厚いので簡単に解雇はされないが、外国は違う。その国からすれば、日本人は「外国人」であり、別に頼まれもせず勝手に来ている外国人であることを覚えておこう。
とはいえ、日本と違って転職が当たり前の世界なので、解雇されてもまた次の会社に行けばいいや~くらいに考えていてもよいかもしれない。
働ける職種が限定される
現地採用として募集している部門は、営業やマーケティングが多い印象。人事や経理などのスタッフは現地の人で占められていることが多いし、法律上そもそも外国人である日本人が働けないこともある。例えば、インドネシアでは、外国人が人事を務めることはできないし、タイでは、弁護士として活動することもできなかったりする。
年金が少なくなる
海外駐在員は、日本の会社に雇われているため厚生年金を払い続けることが多いが、現地採用者は、雇用者が海外の会社になるため厚生年金を脱退し、国民年金に入ることが多い。いずれ日本に帰ってくることも想定して国民年金は払い続けておくことが良いかと思う。
もはや、年金システムは崩壊しそうなので、年金に頼るつもりはない!という人は問題ないかもしれないが、少しでも年金を当てにしている人は、今一度取り分の変化を計算してみることをお勧めする。
海外駐在員になるためには
ここからは、海外駐在員になるにはどうすればよいか話していきたい。
必要なスキル
正直なところ、どのような立場で駐在をするかによって必要なスキルは変わってくるので、共通するスキルを話していくこととする。
英語力
英語はなんだかんだで必須である。英語が通じない国であっても、会社の中では英語を公用語としている会社がほとんどである。例外として、中国やタイでは、比較的日本語を話せる現地社員が多い。
では、どれくらいの英語力が必要なのか。TOEICでいえば、860点くらいはとっておきたいところ。しかしより重要なのは話せることだ。TOEICが高得点でも英語が話せず、現地社員とコミュニケーションできない駐在員を何人も見てきた。
コミュニケーション力・相手を尊敬する力
英語よりもこれらの方が長い目で見たら大事かもしれない。どうもアジアの国においては、日本人が偉そうにして現地社員を見下している風潮がある。そんな態度では、彼らとうまくいくはずがない。相手の国や人を勉強して、尊敬する力をぜひ見につけていただきたい。
尊敬する力を養うには、相手の語学を勉強することが良いと思う。以前の記事「帰国子女が考える英会話を上達させる方法~語学の勉強はなぜする必要がある?」でも述べたが、語学を勉強することは、その人の思考プロセスを学ぶことでもある。思考プロセスがわかれば相手を理解することもでき、すぐに怒るということも少なくなるだろう。
体力・タフさ
スキルという感じではないのだけれど、体力はすごく大事。海外に赴任すると、ひとつの国だけでなく、あちこち飛行機で飛び回ったり、車で長時間移動することが極端に多くなる。日本とは違い、仕事の裁量も大きいことから仕事の量が増え、さらに慣れない環境下での生活、食事はストレスが増える。こうした中でも切り抜けていく体力とタフさはかなり重要だ。
駐在員になりやすい業界・部門
なりやすい業界
駐在員として海外に赴任しやすい業界や部門はあるのだろうか。実際ある。
まず、業界は、海外の売上高が多いところである。メーカーが筆頭に挙げられるだろう。人数も多いし、海外拠点も多い。商社も比較的駐在員が多いと言える。
他方で、銀行や証券会社、保険は狭き門だ。エリートでなければ駐在ははっきり言って難しい。
なお、勘違いしている人がたまにいるので言っておくと、日本にある外資系の会社は、まず海外駐在はない。海外駐在員は、本社から子会社・支店に派遣されるのが基本なので、日本にある外資系(子会社・支店)から親会社や兄弟会社に派遣されることは極めて稀である。あるとしても研修で短期間の赴任である。
なりやすい部門
続いて、海外駐在員になりやすい部門。これは、営業や製造部門である。子会社や支店では基本、作って売ることがビジネスであるため、これらの部門から来ている人が多い。経理、人事、法務などの間接部門も行けないことはないが、狭き門である。
まとめ
以上、今回は、駐在員と現地採用者の比較と、駐在員になるためにどうすればよいのかを見てきた。海外駐在員を目指している人は、ぜひ参考にしていただき、夢を叶えていただきたい!