シンガポールでのBribery事件をご紹介します。Land Transport Authority(陸運省)の元役人であるFoo氏が1.24Mシンガポールドルを受け取っていたとして、9月2日に5年半の懲役刑が下りました。CPIもかなり高いシンガポールでこのような事件が起こったことは現地でも衝撃的で、CNAやStraits Timesでも大きく報じられています。
事件の発覚・経緯
そもそも本事件は、CPIB(Corrupt Practices Investigation Bureau、当局)に匿名の通報がありFoo氏を調査したところ発覚しました。本人はギャンブルで借金に困っていたらしく、LTAによるプロジェクトの元請けや下請けから「借金」をしていたようです。Foo氏に金を渡したとされる企業には、韓国のDaewoo Engineering &Construction, シンガポールの上場企業であるTiong Seng Holdings、中国のChina Railway Tunnel Groupが含まれ、これらの企業は、LTAの入札において有利な取り計らいをしてもらう意図をもって金を渡したと考えられます。
シンガポールでも油断しない
シンガポールでは、MRTやLRTの鉄道延伸工事が続いており、これらはすべてLTAが所管しています。本件により、さすがにLTAはこのようなことをすることはないと思うものの、シンガポール政府による入札取引においては引き続き注意が必要です。
シンガポールは小さい国です。面積も東京都23区くらいしかありません。大規模な建設や事業は政府が絡んでいることが多いです。政府じゃないと思っていても、政府が出資している会社であることが多いです。例えば、ST Engineering(総合メーカー)やNTUC(National Trade Union Congress; 全国労働組合会議)が挙げられます。
シンガポールはクリーンな国だから、政府や企業から贈収賄のお誘いもないと考えて良いですよね?ーいいえ、間違いです!
人間はどこにいってもよこしまな気持ちがあるものです。物を贈れと言わなくても、接待をしろとか普通です。むしろ、接待しないとなぜしないのかと言われてしまうほどです。普通に飲み会しているレベルであればお咎めはないですけれど、キャバクラ(SGでは、KTVという)に行って遊ぶとか、あまりに高額なレストランで食事を繰り返ししていると、当局の目に留まる可能性が高いです。
会社としてどんな対策をしておけばよいか?
当局は、見せしめ的に摘発することもあるので、大企業は特に狙われやすいでしょう。会社としては、次の対策を最低限の事項として行う必要があります。
ポリシーの制定
ひな形どおりでもよいので、まずは形だけでもポリシーを作っておきましょう!当局からは真っ先に指摘されることのひとつです。社長のサインをつけて、箔もつけておきましょう。
ポリシーの周知・教育
ポリシーを制定したら、従業員に周知しましょう。そして、記録に残しておきましょう。メールやチャット、説明資料などで記録に残しておくのが良いです。
メールで送りつけるだけじゃ意味ないんじゃないの?ーそのとおりではありますが、何もしないよりはましです。定型文でも良いので、従業員に送りましょう。そして、教育もしましょう。社長が定例ミーティングでお話をすることでもよいでしょう。Tone at the Top、つまりトップから末端まで指令をおろすことが重要です。
責任者を選任する
贈収賄に関連する責任者を選任しておきましょう。一人いれば良いです。彼、彼女には次の業務を行ってもらいます。
- ポリシーの制定、改訂
- ポリシーを守るよう企業文化を構築
- 従業員からの問い合わせを受ける
- 当局の対応
大それたことをやってもらう必要はありません。贈収賄のことならこの人に聞けばよい、ということを明確にしておくのです。そうすれば、対外的にもこの会社は組織としてしっかり仕組みがあるのだということを示すことができます。
責任者は誰にするのがよいか?
できれば、第三者的な位置づけのスタッフ部門の長を選ぶことをお勧めします。例えば、人事部長、経理部長、法務部長、監査部長といった感じです。間違っても営業部長や事業部門長を選ばないことです。彼らは、接待等を申請、実行する側で、自己承認もやりかねないのでダメです。
モニタリング
余裕があれば、モニタリングを実施するとより良いです。ポリシーを作ったり、研修を始めるときは、みんな意識も高く、問題は起きにくいです。問題は、数年経った後です。慣れが一番怖いのです。海外の会社は人の入れ替わりも多いので、3~4年経てばまた教育をやり直さないといけないレベルです。
では、どうすればよいのか。できるだけ自動化をしたいところです。贈収賄の規制はそんなに大きく変わることもないでしょうから、一度資料を作ったら、あとはeラーニングで自己学習してもらう。これを毎年実施する。
あとは、セルフチェックシートを各部門に配り、各項目についてチェックしてもらう。これも毎年やる。
こんなふうにやっていると、従業員は面倒くさがりながらも意識として擦り込まれます。それでいいのです。本来、贈収賄は普通に考えればやってはいけないことだとわかります。それを定期的に研修することで気づかせてあげるのです。
さいごに
シンガポールのようにクリーンだと思われている国でも贈収賄のリスクは常にあります。ニュージーランドやオーストラリアといった場所でも気は抜けません。
会社としては、万が一当局から指摘を受けても説明をできるようにしておくこと。そうすることで、会社としての責任が軽減されます。
他方で、個人としては、たった一回でも刑罰を受ける可能性があることをよく理解すること。会社のせいにはできないです。会社はあなたのせいにしようとして、責任を逃れようとします。十分気をつけましょう。